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伝統・科学・世界を知りマネジメントに活かす

日本の伝統・ヒトの自然科学・現在の国内外情勢・マネジメントなどに関する、ブックレビュー

ディープエコノミー/ビル・マッキベン



★★★

地域社会主導の経済にむけて

ひたすら経済成長だけを重要視していること(新古典派経済学)が、
自分達を幸福にすることなく(行動経済学より)、地球の生態系を破壊寸前まで追い込んでいる(生態経済学より)。
すなわち、量の追求=質の追求とはならなくなってきているのに、相変わらず量を追い求めている。

これは著者が、人類が一つの種として犯した数ある過ちの中で、かなり上位に位置すると考えているものです。
また、その大失敗の原因は、昔は通用したことを、今後もそうだと思い込んでしまったからだとしています。
そのうえで、これらの大失敗を解決するためには、もっと掘り下げて問うような新しい経済学が必要だと訴えています。


まず、最も身近な食糧について解説しています。
(世界の資産と消費者支出の50%は食料体系に費やされています)
現代農業は大量の食糧を安価に生産しており、これは人類による偉業であると認めています。
(巨大な汚水池、哀れな動物、労働者の酷使、テロへの脆弱性などの問題があるものの、改善可能としています)
一方で、現代農業は、水と石油を大量に使う持続不能な資源に頼った、食のバブル経済を作り上げてきたとし、
我々の食生活を変えなければ取り組むことができない難しい問題であるとしています。

そのうえで、代替案として、小規模農家・有機栽培・地元販売を事例を踏まえて提示しています。
理由としては、大規模農家よりも生産性が高い、石油の使用を減らせる、味がよい、などを挙げています。


次に、個人主義について解説しています。
過去500年の物語は度重なる解放の物語であり、総じて利益をもたらしたと認めています。
一方で、現在ではこれらが行き過ぎており、人々は孤独に見舞われているとしています。
また、孤独は心理学的にも(満足感の低下)、医学的にも(疾病発症率の増大)、悪い状況を生み出すとしています。

そのうえで、代替案として、経済・社会・個人が上手くバランスする地域社会の形成を提示しています。


そこで、地域社会に必要なものとして、事例付きで以下のような要件を挙げていいます。
・ローカルラジオ(自分の周辺に関する事柄を知ることができる)
・分散型エネルギー(送電ロスによる化石燃料の浪費を抑えることができる)
・公共交通機関(徒歩・自転車を除く交通機関よりも安上がりである。化石燃料の浪費を抑えることができる)
・コ・ハウジング・コミュニティ(人と人との触れ合いを生み出すことができる)
・森林計画(大量生産の効率から地元仕入の効率へ、物資の費用から労働力の費用へシフトすることができる)
・地域通貨(地元での消費を促すことで地域の経済基盤をつくることができる)
・直接民主主義(参加者が自分が良い市民である、世の中と結びついていると感じることができる


また、世界の様々な場所で、各々が独自の伝統と資源と希望を考え合わせると何ができるかを考えることで、
量だけを追い求めない地域社会が作られていることを、幾つもの事例で紹介しています。
そしてこれらの例は量の追求を前提としたグローバル経済や経済開発に過度に依存しなくても、
地域社会が自立できることも示している、としています。


著者の基本的な主張は納得できますが、
著者のいわんとする「質」の定義が曖昧であるからか、文章の構成の仕方が上手くないからか、
各々の事例が如何なる「質」を代弁しているのかを読み取るのに少し労力を要します。
またこれらの事例は環境関連本を何冊か読まれている方にとっては既出のものが多いでしょう。

あと、「おわりに」で地球温暖化の危機について強調していますが、
強調するのであれば、本文中でもっと事例や解説を加えて欲しいと思います。
著者のいわんとする「質」の一つが環境保全であるとすれば、なおさらです。

最後に、著者が冒頭で「もっと掘り下げて問うような新しい経済学が必要だ」と述べている割には、
それほど掘り下げられているとは思えません。
地域社会ありきの主張とも受け取れるところもありますし、事例も地域社会のものばかりです。
またグローバル企業(ウォルマートなど)が地域を滅ぼすという主張が何箇所も出てきています。
既存の経済の歪みを指摘することや、それとは異なる経済の実例を提示することはできていますが、
それらをもって「掘り下げて問う」とはいえないと思います。
  1. 2011/09/30(金) 15:31:03|
  2. 持続可能性
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いのちの輝き/ロバート・C・フルフォード



★★★★★

オステオパシー=ホリスティックな医学

現代の西洋医学は体をパーツに分解し、パーツごとに医療技術を専門家・高度化させています。
一方で、パーツを超えた疾病については、なかなか適切な治療が受けられないという弊害がでています。

また個人的には、以下のようなことを聞いていました。
・歯科技師の知人から、歯の噛み合わせの悪さが脊椎を歪ませ様々な疾病の原因になる
・中国の外科医の免許を持っている整体師から、投薬や手術をしなくても整体・鍼・気功で治せる病気はある
一方で、和漢診療を行っている医師からですら、整体や鍼治療を見下す発言を聞かされたこともあります。

従って、現代の西洋医学とは異なる、または補完する医学を紹介する本があるとのことで、本書を手に取りました。


本書で紹介されているオステオパシーは、
・からだのシステムとこころのシステムはひとつに結ばれていること
・からだが活発に動くエネルギーの入り組んだ複雑な流れでできていること
・人間をひとつの全体としてとらえること
・健康の基盤が様々な身体システム間の正しい関係の維持にあること
を基本として創り上げられた医学であり
西洋医学の効用を認めつつも、西洋医学の弊害を解消する方法として位置づけられています。

一見、科学的な根拠が曖昧な民間療法のようにみえますが、
アメリカでは全ての州でオステオパシーを認めており、
多くの病院で西洋医学とオステオパシーの医師が一緒に仕事をしているとのことです。
またオステオパシー大学も設立されており、
そこで学ぶ学生はオステオパシーだけでなく西洋医学の正規科目も学んでいるとのことです。
従って、民間療法とは異なり、科学的な裏づけのある医学だといえます。


オステオパシーでは、人間の生命活動は宇宙に支えられているので、
健康とは何かを理解するためには、我々を取り巻く世界に関する基本的な知識が必要として以下を挙げています。
・生命場:健康状態が悪いときには生命場も不安定である(周波数の高い電磁場、日本でいう「気」)
・生命力:健康でないヒトは生命力がブロックされている(体内にある電磁場、著者は「霊性」「神」の正体としている)
・波動:健康でないヒトは十分に振動していない。全てのヒトのからだはその人固有の周波数で振動している
・呼吸:浅くて不規則な呼吸をしているときは、健康状態も悪く、エネルギーも低下している
(呼吸については、本書の中で繰り返し重要性を訴えています)

また、こころの状態によって生命場の電位が変わるので、
こころをバランスの取れた創造的な状態に保っておくことが重要であるとしています。

このような説明を読むと似非科学のように思えてしまいますが、先述したとおり科学的な裏づけのある医学なんです。


そのうえで、表面だけではなく芯から癒されたいのなら、自分の全存在を大切に育まなければならないとし、
そのための選択肢は、鍼治療、生薬療法、オステオパシー等の生命力に働きかける代替療法の中にしかない、としています。
また、西洋医学の患者の7割は代替医療で対処できるものだそうです。

そして、その背景として、以下を挙げています。
・医療への過度の規制で、どんな名医でも患者とじっくり向き合えなくなっていること(日本でも「3分診療」という言葉がある)
・抗生物質は、症状を抑え込むことで一時的に寛解するが、将来再燃して、別の症状として現れる可能性が非常に高いこと


また、一章を割いて著者が実践している治療法が紹介されていますが、是非とも受けてみたくなりました。
(日本にも幾つかオステオパシーの団体があるのをweb上で見つけました)


更に、自分で自分の健康を守る必要があるとして、以下を提示しています。
・からだの内なる治癒力を信じる(からだは健康になりたがっている、健康に反する欲望をおさえること)
・よい医師を選ぶ(評判、治療環境、こころ配り、ことばづかい、を確認すること。ダメなら医師を変えること)
・よい患者である(自分の症状をメモしておくこと、医師の処方を守ること)
・生薬を使う(但し資格のある経験豊かな専門家の指導にもとづくこと、なお合成薬剤の効果も認めている)
・ホメオパシーを使う(但し真髄を習得している専門家の指導に基づくこと)
・天然のマルチビタミン剤を使う(効果がでれば続ければよい、但しメディアに踊らされないこと)
・ストレッチ運動(誰にとっても必要なため、他の運動は自分が楽しめるかが鍵、新説に踊らされないこと)
・自分に合うバランスのよい食事(からだのバランスを左右する三大要因である気圧・感情・食事の中で簡単に変えられる)
・深呼吸と散歩(ストレス解消に役立つ)
・瞑想(意識を内側に向けることは健康を増進するために必要)

また、患者に治癒への希望をもたせることができない医師は、患者の病状を悪化させる恐れがあるとしています。


なお、最終章では具体的なエクササイズが挿絵付きでわかり易く紹介されています。
オステオパシー医に直接治療してもらうのと同等の効果は得られないでしょうけれど、
自分自身で試してみることができるのは、嬉しい限りです。


あと、「霊性を高める」と題した章がありますが、
これについては科学的な根拠が一切述べられていませんでしたので、著者の信じる思想と判断しました。
悪いことが書いてあるわけではないし、その限りにおいて何を信じるかは自由だと思いますのでレビューは控えました。
  1. 2011/09/23(金) 14:54:46|
  2. 医学
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錯覚の科学/クリストファー・チャブリス等



★★★★

ヒトの錯覚についての実験心理学

本書は、世の中で起きている様々な問題の原因の一つとして、ヒトが生来持っている「錯覚」に焦点をあて、
どんな「錯覚」がどんな問題を引き起こすかを解説しています。

本書で取り扱っている錯覚は以下のとおりです(章立てとおり)。

・注意の錯覚:見えているのに見ていない。注視しているもの以外は、視野に入っていても見えない、脳が認識しない。
・記憶の錯覚:記憶は案外いい加減なものである。他人の記憶でも自身の記憶にしてしまうことがある。
・自信の錯覚:実力のないヒトほど自身の実力を過信する。自信満々なヒトを信じやすい。
・知識の錯覚:自身の持っている知識を過大評価しやすい。専門家も自身の専門分野ですらその傾向がある。
・原因の錯覚:パターンを求めたがる。相関関係を因果関係に飛躍させたがる。時系列の前後関係のある物語を好む。
・可能性の錯覚:自身の潜在能力を簡単に向上できると思いやすい。その手の商品につられやすい。

そのうえで、これらに共通することとして以下を挙げています。

・自身の能力や可能性を過大評価させる。
・自身が簡単にできることを、上手くできることと混同しやすい。

そして、これらの錯覚の影響を減らしてくれ「そうな」方法として以下を挙げています。

・日常的な錯覚の働きについて知る。
・自身の認知能力をトレーニングで鍛える(但し、あまり期待できないとのこと)。
・テクノロジーを使って補う。


紹介されている錯覚の骨子については他の書籍を通じて概ね知っていましたが、
本書で紹介されている豊富なエピソードや実験結果によって、より鮮明に認識させてくれました。

中には、たったこれだけの情報でそう言い切っていいの?というものや、
心理学で結論がでていないものを但し書きなしで触れているものもをありましたが、
本書の骨格に影響を及ぼすほどのものではありませんでしたので、このことで★を減らすことはしていません。
(ただ、このことに直接関係している方にとっては重要なことだと思いますので、実験を継続する必要はあるでしょう)

また、エピソードや実験結果の量の多さを、豊富と捉えるか冗長と捉えるかは、意見が分かれると思います。


なお、本書は自身の錯覚に気をつけようというトーンですが、錯覚が悪いことだけかというと、そうでもないようです。
ポジティブ心理学では、これらの錯覚があることで幸福感が得られるといわれています。
(現実を直視するとつらくて耐えられないそうです)
これについては、マーティン・セリグマン『世界でひとつだけの幸せ』が参考になると思います。
  1. 2011/09/22(木) 16:28:42|
  2. 心理学
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からだの一日/ジェニファー・アッカーマン



★★★

人体の取扱概要説明書

本書は、人体の様々な機能についての最新知見を、幅広くかつ数多く紹介しています。
その分、一つ一つの知見については、ツボは押さえつつも、奥深さは犠牲にしていると思います。

取り上げられているトピックとしては、
・体内時計によって体が支配されていること
・睡眠と覚醒サイクルには個人差(朝方・夜型)があること
・脳はシングルタスク向きにデザインされていること(マルチタスクは不得手)
・日中の時間帯別に能率差があること
・ヒトは体内微生物と共生しなければ生きていけないこと
・腸は第二の脳といわれ、脳からの指示なしで機能していること
・代謝には個人差があること
・午後に睡魔が訪れることと、昼寝をすることが重要であること
・疲労が未だ科学的に理解されていないこと
・慢性的なストレスが脳・身体・遺伝子に悪影響を及ぼすことと、ストレス解消法(瞑想・音楽・社会的絆・笑い)
(不安や恐怖の詳しい研究は本書でも引用されている、ジョセフ・ルドゥーの『エモーショナル・ブレイン』を参照)
・有酸素運動はストレスや不安を取り除く最良の方法。運動によって適した時間帯があること
・運動は代謝だけでなく脳の能力も上げること。学習力と記憶力が強化され、認知症の予防につながる
(運動効果の詳細は本書でも引用されている、ジョン・J・レイティ等の『脳を鍛えるには運動しかない!』を参照)
・笑いが血管の健康に与える好影響は有酸素運動に匹敵すること
・アルコールの代謝率は1日のうちの時間帯でことなること
・男女間の評価や魅力に関する限り、嗅覚は視覚や聴覚と同等に重要な要因であること
・男女間で認知処理方法に差があること
・風邪を治療する薬はまだないこと
・多くの病気は生物リズムの影響下にあること(症状が大きく日内変動する)
・同じ量の薬を服用しても体は時間帯によって異なる反応を示すこと
・健康管理のうえでは、食事・運動・遺伝ですら重要性において睡眠には及ばないかもしれないこと
・睡眠は5つの段階を繰り返すこと。各段階で脳波・体温・生化学・筋肉・感覚活動・思考・意識レベルが変化すること
・運動や自然光を浴びることが質の良い睡眠につながること。逆に酒は質の悪い睡眠につながること
・睡眠不足は集中力・動機・知覚の欠陥を促し、体の免疫反応を低下させ、基本的代謝機能を損なうこと
・脳は睡眠によって自己修復すること
・新しいことを学ぶためには、学ぶ前にも学んだ後にも十分な睡眠が必要であること。但し「睡眠学習」は効果がないこと
・脳は睡眠中に、記憶を新しいものから恒久的なものに変える過程でシャッフルすることで、新たな洞察を生みだすこと
・老化によって体内時計のリズムが狂ってくること。老人が若者より寝るのも起きるのも早いのはこれが原因であること
・睡眠を一度にまとめてとる習慣は現代生活の所産であるということ
・人工の光がヒトの体内時計を狂わせていること。夜間に人工光を浴びると健康面での問題が生じること
・長距離フライトに5年間従事すると、記憶力や認知能力に問題が生じること。交代勤務でも同様に問題が生じること
・徹夜や不規則な夜勤は、労働者への悪影響が引き金になって事故を起こしやすくなること
などを始めとして数多く散りばめられており、トピックごとに最新の研究で得られた知見が並べられています。

例えば、日中の時間帯別の能率差については、以下のようなことが挙げられていました。
・脳の中には体をコントロールしている時計があり、概日リズムと呼ばれている
(概日リズム:サーカディアンリズムのこと。本書内ではこちらの語源だけが記されていましたので付記しました)
・概日リズムには年齢差や個人差があり、遺伝子が関係しているらしい
・概日リズムによって、一日のうちでも脳機能の活動水準が変化する


個々のトピックについて基本的なことから解説しているのは良いのですが、理解するうえで本書は以下の難点があります。

・一日の始まりから終わりまでという順序で章立てされおり、人体機能を体系的に理解するのには苦労すると思います。
(ある人体機能が複数の章にまたがってちらばっています。また同じ章内で別機能が並んでいたりもします)
・章内で異なるトピックに移る際、見出しもなく突然異なるトピックが始まりますので、頭の切り替えに疲れると思います。
・余談が多く、科学的な要点だけを知りたいという方にとっては、無駄な情報が結構あるな、と思われるかもしれません。
・文章が構造的ではありませんので、一読するだけでトピックのポイントを掴むのにも苦労すると思います。
・逆に、この類の書籍をかなり読まれている方にとっては、冗長だと思われるかもしれません。

従って、プレゼンテーションという観点からすれば本書は落第です。
取り扱っているトピックそのものは興味深いものが多いだけに残念です。
  1. 2011/09/21(水) 11:05:16|
  2. 脳科学・神経科学
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なぜ経済予測は間違えるのか?/デイヴィッド・オレル



★★★★★

役に立つ新しい経済学への変革の提言

経済学の書籍を何冊も読んだ印象として、経済学は科学というよりイデオロギーだと思うようになりました。
その中で、中立を装いながら特定のイデオロギーに誘導するような書籍に何冊も出会いました。
また、経済学が科学を装うために、無理矢理ニュートン物理学の真似をしているという話も読みました。
さらに、新しい考え方(複雑系)などを経済学に取り入れようとすると、大きな反発を招くという話も読みました。

最近、行動経済学が登場し、修正されつつあるものの、本質的な部分の抜本的な変革には繋がっていないように思えます。

ただ、それでは経済学はどうあるべきか、どうすべきか、について整理された本をこれまで見受けませんでした。
本書は、これらについて本格的にメスを入れた初めての本ではないかと思います(私の知り得る限りですが)。

ネイチャー誌に載った「経済学は科学革命を必要とする」という記事の、
「私たちは古典的な経済学と手を切り、まったく別の道具を開発する必要がある」
という提言を受けて本書は書かれています。

まず、新古典派経済学の基本中の基本である、需要供給曲線を否定します。
この曲線はニュートン物理学を真似て作られているため、還元主義をベースとし、不変要素があることを前提としています。
しかし、実際の経済は気象と同様、様々な要素(社会的因子・経済的因子・心理的因子)が複雑に絡まっており、
単純な法則に還元することはできないため、創発的現象として経済を捉えるべきだとしています。
そのうえで、代替案として複雑系理論の活用を提言しています。

以降、様々な歴史や大きな出来事などを踏まえながら、以下のような考察・提言をしています。
(もう少し詳しいレビューは追記をご覧ください)

新古典派経済学そのものの変革

・効率的市場仮説の否定と、代替案としてネットワーク理論の活用の提言
・経済は市場の「見えざる手」で安定しているという思い込みの否定と、代替案として非線形理論・制御理論の活用の提言
・合理的経済人という概念の否定と、エージェントベースモデルのシミュレーションに基づく研究の提言
・主流の経済理論の偏った思考様式の否定と、上記で提言した内容の再提言
・経済は本来的に公平で均衡しているという神話の否定と、公平・均衡を取り戻すある程度の規制の導入の提言
(権力とコネを持つ一握りの個人・組織が、自己利益の追求のために数多くの他者を犠牲にすることを制限する規制)

経済学を取り巻く外部世界との調和

・生態系を無視した経済学の否定と、生態系の一部として経済を位置づけることの提言
(但し、環境経済学は新古典派経済学のうえに成り立っているため問題を抱えているとのこと)
・幸福について誤った定義をしている経済学の否定と、幸福のために社会的規範に経済的規範を従属させることの提言

本書の総括と変革の方向性

・歴史のある時期の特有のイデオロギーである経済学から、21世紀の知識と技術に基づく経済学へ
(ネットワーク理論、複雑系理論、非線形理論といった応用数学の活用)
・経済を惰性的な機械として扱う経済学から、経済を一種の生命体として扱う経済学へ
(モデルも手法も、システム生物学、生態学、医学といった生命科学用に開発されたものを活用)
・バリバリの方程式と数に執着した経済学から、もっと細やかな多面的な進め方ができる経済学へ
・学部内に閉じこもった経済学から、幅広い人々の洞察が利用される経済学へ
(環境保護派、フェミニスト、心理学者、政治学者など)


簡単に要約すると、
新古典派経済学は、経済の実態とは乖離しており役に立たない。そればかりか弊害をももたらす。
従って、経済の実態をより上手く反映できる、経済の外部世界とも調和した複雑系経済学を構築・活用すべきである。
となります。

記憶に新しいリーマンショックに関連した事例を幾つも活用して論じているため、提言に真に迫るものがあると思えました。
また、環境や幸福など最近話題のテーマを経済学と絡めて論じているため、提言が身近に感じられました。


本書で提言された内容や、経済学者でない者が経済学変革の本を出すことに、
不満・怒りを抱く経済学者は少なくないと思います。

しかし、P・F・ドラッカーも言うように、えてしてイノベーションは外側からやってきます。

本書がベストな提言かどうかはわかりませんが、
外側からの提言であっても、経済学者の方々は真剣に検討する必要はあると思います。


なお、本書では複雑系理論の要素が沢山出てきます。
多少なりとも複雑系理論を知らないと訳がわからなくなるかもしれません。
入門レベルの書籍を挙げておきますので、ご参照ください。

今野紀雄『図解雑学 複雑系

更に詳しく知りたい方には、以下もお勧めです。

複雑系:M・ミッチェル・ワールドロップ『複雑系
べき乗則:マーク・ブキャナン『歴史の方程式
ネットワーク理論:アルバート・ラズロ・バラバシ『新ネットワーク思考
エージェントベースモデル:ジョシュア・M・エプステイン&ロバート・アクステル『人工社会

また、複雑系経済学の書籍は1冊しか読んでいませんが、こちらも挙げておきます。

W・ブライアン・アーサー『収益逓増と経路依存

なお、他の書籍(著者・タイトルは忘れましたが)で、
上記著者が経済学の世界では複雑系の考えはほとんど受け入れてもらえない、とコメントしていました。


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  1. 2011/09/20(火) 10:49:00|
  2. 経済学
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脳を鍛えるには運動しかない!/ジョン・J・レイティ等



★★★★

運動と脳の科学的な解説書

本書は、適切な運動が脳に良い影響をもたらすことを科学的に説明しています。

タイトルの「脳を鍛える...」という言葉からは、頭が良くなるための運動についての本であることを連想させますが、
それに割かれているのは1章のみで、他は、脳に何らかのダメージを持つ人の治療・予防への運動の影響の解説です。
(ですので以下のレビューは脳のダメージと運動について書かれている章についてのものです)


運動と脳との関係を要約すれば、以下のようになるとのことです。
・義務ではなくやりたいと思って行う運動が脳に良い影響を与える。
・運動(有酸素運動がよいらしい)がなによりの刺激となって、脳は学習の準備をし、意欲を持ち、その能力をたかめる。
・運動が、ニューロンやシナプス、有益な神経伝達物質や神経栄養因子の生成に関与し、脳の活性化に繋がる。
・運動した後に脳を使うことでより効果的に能力を高めることができる。
・人は狩猟するように進化してきたので、それに逆らわないように運動することが必要である。
(ただ、進化の説明は疑問です。女性は狩猟していませんし、農耕文明以降ヒトは進化の方向を変えたという説もあるため)


これらを基に、脳が受ける様々なダメージ(本書の章立て)と運動との関係について、以下のような内容を提示しています。
・ストレス:ニューロンは筋肉と同様な方法で鍛えられるので、克服可能な軽度のストレスを運動で与えると良い。
・不安障害:運動すると体の筋肉の緊張が緩むので、脳に不安をフィードバックする流れが断ち切られる。
・うつ病:運動を習慣として行っている人はうつ病になりにくい。運動はうつ病治療の他の方法と同様の効果が得られる。
・ADHD:武術のように型の決まった複雑で集中力が求められるスポーツが効果的である。
・依存症:運動は解毒剤であるとともに予防注射にもなり得る。また絶望感や無力感を埋める方法の一つである。
・女性のホルモンバランスの変動:運動は変動のマイナス面を軽減し、プラス面を強化する。
・加齢:運動は老化の進行を阻むことのできる数少ない方法の一つである。

さらに、各々のダメージの解説では、脳の状態と運動について、神経科学の知見を駆使した詳細な解説がなされています。
(運動によりどんな物質が生成され、それが脳のどこに運ばれ、どう影響することで、如何なる効果が得られるのか)
この解説で、運動がいかに脳に良い影響を与えるのかを、正しく理解することができます。

最後に、運動がどれほど健康を支えてくれるかとして、以下を示しています。
心血管系を強くする、燃料を調整する、肥満を防ぐ、ストレスの閾値を上げる、気分を明るくする、免疫系を強化する、
骨を強くする、意欲を高める、ニューロンの可塑性を高める


一方で、各々のダメージを回復するための個別具体的な運動方法については、
各章の終わりと最終章を割いて書かれていますが、科学的な説明と比較して情報量が少ないと思います。
(ベースとなる個体差・ダメージの種類と重症度・治療の段階などの違いによる、適切な運動の手段・量・頻度・負荷など)
運動が脳に良いことは事実ではあるものの、まだ研究は成熟していない、というのが実態のようです。

ですので、本書はあくまでも運動と脳の科学的な解説書であり、実践を促すものではありますが、
本書で挙げられたダメージを持つ方が、本書を読んで独力で最適な運動方法を作成・実践するのは、
容易ではないでしょうし、場合によっては危険でもあります。
本文中でも何度か記されていますが、専門医に相談の上、運動の可否やメニューを決める必要があると思います。


なお、最終章で「運動は脳の機能を最善にする唯一にして最強の手段」という文章が出てきますが、飛躍があると思います。
本書で、運動が脳に良いことを科学が証明したことはわかりますが、唯一・最強であることを証明しているとは思えません。
また、幾つかの章で、脳のダメージを治療するために薬物療法や心理療法などを併用している、という記述と矛盾します。
更に、運動とそれ以外の手法との厳格な比較をしている箇所は見受けられませんでした。
あと、ヨガや太極拳に簡単に触れていますが、様々なリラクゼーション手法、瞑想手法についての言及はありませんでした。
(リラクゼーションの重要性と方法については、グレッグ・D・ジェイコブズ『脳内復活』が役に立つと思われます)

優しく解釈するならば、
「著者が知りえた科学的知見」のなかで「唯一・最強」なのでしょう。
この文章に影響されてか、邦訳タイトルも少しあおりぎみになっています。
  1. 2011/09/18(日) 11:19:56|
  2. 脳科学・神経科学
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知性誕生/ジョン・ダンカン



★★★★★

知性について心理学と脳科学を統合した稀有な本

本書は、ヒトの知性について心理学と脳科学を統合しようと試みている稀有な本です。

まず、知性研究の先駆けであるスピアマンの100年程前の研究成果を振り返ることからはじめています。
そのなかでヒトの知性には以下の2種類のものがあること、
 ・一般因子(g):人が何かに取り組むときにどんなことにでも用いているもの
 ・特殊因子(s):特定の能力に特有のもので、他の活動にほどんど、あるいは全く影響しないもの
活動によってはsがほとんど関与しないものからsがほとんどを司るものまで様々なものがあること、
を紹介しています。

そのうえで対象を一般因子(g)に絞り、この1世紀、gの正体が何なのかについてはずっとおぼろげなままだとして、
それは何か、どこでどのように機能しているのかを探求していきます。

ここで脳科学の知見が登場してきます(但し新皮質に特化)。
脳機能はモジュール構造であることを紹介しつつ、特殊因子(s)が存在することを簡単に確認した上で、
これまでの前頭葉損傷患者の研究や、最近のfMRIを使った研究などを踏まえて、
前頭葉内の2箇所と頭頂葉の一部(多重要求回路と命名)が知性の中心である一般因子(g)を司っているとしています。

そして、知性の中心である一般因子(g)は、
人工知能の知見から、思考の構造化された心的プログラムを組み立てることだけであることを示し、
その枠組みを脳の多重要求回路がどのように機能することで処理しているのかを探っていきます。

そこで、多重要求回路の一部が含まれる前頭葉の研究から得られた知見として、
他の脳領域(機能特化)とは異なり、前頭葉は様々な問題解決に集中するために柔軟に活動することを示しています。
(同じ神経細胞が異なる問題・処理に対しても発火するようです)
またその活動のために、前頭葉は様々な感覚、記憶、特殊因子(s)から入力を処理・統合していることを示しています。

一方で、その集中が、知能や理性に制限を生み出すことがあることも示しています(認知バイアスなど)。


なお著者は、本書で提示した自説を信じつつも、異なる結果が将来出てくる可能性があることを否定していません。
(一般因子(g)と様々な課題との間の正の相関の理由について、他の考え方もありうることを示しています)
自説にこだわり他の説を受け入れない科学者(社会科学者に多い?)もいる中で、この姿勢は素晴らしいものだといえます。


これまで何冊か知能についての書籍を読んできましたが、
IQについては脳科学の最新知見と組み合わせて提示されたものはなく、
また何が知能と呼べるのか、知能とIQは同じなのか、
(脳科学の書籍で読んだものには、知能とIQが同じだとしているものはありませんでした)
知能は1つか複数かといった不毛な議論に終始するものがほとんどでした。
(まさか100年前にスピアマンが結論を出していたことなど知りませんでした)
本書を持って知性の研究が完成したわけではないでしょうけれど(著者も最終章を使ってそのように述べています)、
本書を読むことで頭の中がかなりすっきりしました。


あとタイミングのいいことに、著者のインタビューが掲載されていましたので、リンクを張っておきます。
いつ掲載がネット上から消えるかはわかりませんので、リンクできない場合はご容赦ください。

ダイヤモンドオンライン
「頭のいい人とそうでない人の差はどこでつく?」
『知性誕生』の著書で脳科学の権威が語る“インテリジェンス”の正体とその高め方
  1. 2011/09/16(金) 16:25:47|
  2. 脳科学・神経科学
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スーパーセンス/ブルース・M・フード



★★★★

超自然現象信奉はヒトの本能

本書は、ヒトは何故、超自然現象を信奉するのか、その原因を追求しようとするものです。
超自然現象を、宗教と非宗教に区別し、非宗教のほうに焦点をあてて解説しています。
(非宗教:ヒトや生物、モノには何らかの本質が宿っていると信じることなど)

日常の世界で普通の人々によく見受けられる超自然現象信奉を取り上げ(各章のタイトル)、
それらの超自然現象がどのようなものであるかを具体例を交えながら紹介した上で、
心理学・神経科学・遺伝学・進化論などの人間科学や医学における研究で得られた様々な知見を使いながら、
(ヒトの脳の通常の働きについての知見を十分に解説したうえで、超自然現象信奉に関する検証を加えながら)
超自然現象の信奉はヒトの本能であり、加えて文化などから学習して強化されるという結論を導き出しています。

また、超自然現象信奉は合理的ではないので不要かと思いきや、
その原因となる脳機能は、損傷により機能しなくなると、カプグラ症候群などの精神疾患になるそうで、
決して不要な機能ではないとのことです。

さらに、超自然現象信奉と合理的な思考は、ひとりのヒトの脳のなかで並存しており、
超自然現象信奉を合理的な思考でマインド・マネジメントする必要があると説いています。
(合理的な思考は前頭葉背外側部が司っているとしています。ここは確かIQに関連する領域だったと思います。)
科学者であっても神を信じている方々がおられるのも頷けます。


なお、本書タイトルである「スーパーセンス」から、
個人的には、シャーマン、チャネラー、ヒーラー、スピリチュアル・マスター、悟りを開いた僧侶などを想像してしまい、
それらの方々の脳機能がどのようになっているのか、また普通の人々とどこがどう異なるのか、など
を研究した知見が多く掲載されていると期待していましたが、本書にはそれらの記述がほとんどありませんでした。
したがって、★1つ減らさせていただきました。

ただ、本書で解説している内容そのものに関心のある方にとっては、★5つだと思います。
  1. 2011/09/10(土) 10:03:02|
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誇りある日本の復活を望む一日本人

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