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Rising Sun

Author:Rising Sun
リヴァタリアン


マネジメントは、ビジネス書の知識を得るだけでは上手くいかないでしょう。

日本の伝統から日本ならではの価値創造の源泉を知り、最新の自然科学からヒトの何たるかを知り、また科学的思考力を磨き、国内外情勢から立ち位置を知ることが重要だと思います。

勿論、基本はP.F.ドラッカー。

このブログでは、私が読んだ上記に関する書籍についてのレビューを紹介しています。

ご参考になれば幸いです。

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ゴールド・スタンダード/ジョセフ・ミケーリ



★★★★★

リッツのマネジメント

リッツ・カールトンについての紹介本は幾つも出版されていますが、本書は、社外の方によるリッツのマネジメントについての紹介本です。

リッツの紹介本は何冊か読みました。それらの本ではいかに高いホスピタリティが提供されているのか、という点での豊富な事例の紹介があり、クレドを始めとした信念や若干の手法が紹介されてはいますが、何故それほどまでに高いレベルでのホスピタリティが可能になっているか、については疑問が残るものが多かったと思います。

本書はそれらとはやや異なり、一流のホスピタリティ事例の紹介に留まらず、その裏にある様々な考え方や手法がこれでもか、というぐらい紹介されています。
クレドがベースにはなっているのですが、それらをどれだけ現場で実際に展開していくかという観点から、大きなものから小さなものまで実に様々な仕掛け、仕組みが張り巡らされていることがわかります。

本書を読むことで、企業が信念を貫き通すためには、どれだけのことをやり続ける必要があるかが、よくわかります。

本書は、ホスピタリティ産業やサービス業の方々にとっては勿論ベンチマーク対象になるとは思いますが、それだけではなく、全ての企業や組織が参考にできるものが盛り込まれています。


また、他の紹介本では、リッツのホスピタリティの成功事例のみを紹介していることが多いのですが、本書では失敗事例や失敗から学んだことも盛り込まれており、リッツとて最初から完璧だったわけではなかったこと、様々な愚直な改善・浸透を続けて今のリッツがあること、がよくわかります。

これらの紹介からも、普通の企業や組織が一流になるために、リッツのマネジメントを参考にして、取り入れることができるのではないか、と思わされます。


机上のマネジメント理論や、斬新なマネジメント手法を学習することも大事だとは思いますが、本書のような、生の企業が継続して信念を貫き通すためのマネジメントを紹介している書籍から学ぶことのほうが有益だと思います。

企業の未来像/フランシス・ヘッセルバイン等



★★★

これからの企業の在り方について。秀逸な論文もあるが、玉石混交

ドラッカー財団が企画した未来シリーズ三部作の一つです(他は『未来組織のリーダー』『未来社会への変革』)。

P.F.ドラッカーの序章、ジェフリー・フェファー、オリト・ガディーシュ/スコット・オリヴェット、イアン・ソマーヴィル/ジョン・エドウィン・ロムズ、ロザベス・モス・カンター、ステファニー・ペース・マーシャル、ジョン・アレクサンダー/ミーナ・S・ウィルソン、チャールズ・ハンディの論文は秀逸であり、新たな気付きを幾つももらいましたが、それ以外は正直いって時間の無駄でした。中には論文としてどうなのか?と疑いたくなるようなものも含まれていました(かなり著名な方々も寄稿しているのですが、それでもです)。

各論文はそれほど長いものではありませんので、各論者の提言を余すところなく伝えているわけではありません。より深く学ぶための辞書的な役割として本書を位置づけるとよいのだと思います。

未来シリーズ三部作をすべて読んだのですが、書籍としての出来は『未来組織のリーダー』が最も秀逸だと思います。リーダーシップについての研究が他の領域よりも進んでいるからなのでしょうか。

誰が世界を変えるのか/フランシス・ウェスリー等



★★★★

ソーシャル・イノベーションの事例集

ソーシャル・イノベーション(貧困・紛争・犯罪等の社会的問題の解決)について、複雑系理論やイノベーション理論などを参照しながら主要なポイントを整理したうえで、様々な事例を紹介している本です。

ソーシャル・イノベーションの書籍はほとんど読んでいませんので、類書との比較はできませんが、結構わかりやすく書かれていますし、失敗事例も載っていますので、親切な本なのではないかと思います。
少なくとも、特定の思想・信条に偏って、効果よりも自説を主張している開発経済等の書籍よりはいいのではないでしょうか。

また、本書は社会的な問題の解決を中心としていますが、ビジネスの世界でも十分に応用できるものだと思います。
ビジネスの世界でのイノベーションについての書籍は技術革新にかなり偏ったものが多いです。
しかし、実際には世の中に受け入れられてこそのイノベーションであり、また市場経済において何かを解決するために企業のイノベーションが必要といえます。
ですので本書の内容はビジネスの世界での重視される必要があるのだと思います。

ただ、豊富な事例の一方で、ソーシャル・イノベーションそのものの理論化が十分にはなされていません。
世の中は理論通りにはいかないものですが、とはいえ理論がなければ上手くいかないのも確かでしょう。
理論については、エベレット・ロジャース『イノベーションの普及』が有益な理論を与えてくれますので、こちらを参照されるとよいのではないでしょうか。

プライマル・マネジメント/ポール・ハー



★★★★

メッセージは秀逸だが実践面の提案は未熟

本書は、人間が生み出す成果の源泉が感情である、というアントニオ・ダマシオやジョセフ・ルドゥー等の最先端の脳科学・神経科学の研究者による知見を踏まえて、これからのマネジメントがどうあるべきか、またどうすべきか、について提言しています。

人間についての自然科学の最新知見をベースとして企業のマネジメントの在り方について提唱していますので、その中核となるメッセージは秀逸です。このメッセージと既存のマネジメントを比較すると、これまでがどれだけ人間に対する知見を無視して行われてきたかがよくわかります。また、最新の知見を駆使することで、企業と人間の両方がより上手く成果を生み出すことができる可能性を見出すことができます。


ただし、経営学において、人間の感情を重視したマネジメントの在り方については、全くと言ってよいほど知見が積み重ねられていないので仕方のないのでしょうけれど、本書で提案されている実践方法については、未熟であるといわざるをえません。

既存のマネジメント手法をすべて無視して実践方法を構成していますので、本書の提案を活かそうとした場合には、丸ごとやりかたを変える必要がでてきますが、実際の企業経営においてそのようなことはできません。

また、人材マネジメントのソフトな部分(組織・プロセス・制度以外)のみに対して実践方法を説明していますので、ハードな部分と如何に整合させていくかについての説明は全くありません。

このあたりがもっと検討され、練り上げられていくと経営手法として活用できるようになるだけに、残念です。

カオティクス/フィリップ・コトラー等



★★

期待はずれ

市場がカオスであることの提言、カオスの状況の解説そのものは頷けるものが多いです。これについては現在の市場を俯瞰する上で役には立ちます。

しかし、ではカオス下で如何なるマネジメントが効果的なのか、という点については全くお粗末な内容しか提示されていません。まともなマネジメント書籍であれば既に提示されているものばかりです。読む価値はありません。

現在の市場は複雑系科学の知見を借りなければ紐解けないことは最近言われていますので、複雑系をベースとした体系的なマネジメント書籍を探していましたし、ドラッカー等の先人の延長線上に本書を書いているという本文中の触れ込みがありましたので読んでは見たのですが、全くの期待はずれでした。


ドラッカーの『乱気流時代の経営』原著初版1980年や『イノベーションと企業家精神』原著初版1985年をじっくりと読んだほうがはるかに役に立ちます。

ドラッカーのこれらの書籍から20年以上経ったあとで書かれた本書ですが、ドラッカーほどの知見はなく、かえってドラッカーの凄さを再確認させてくれる程度のものでした。


経営の未来/ゲイリー・ハメル



★★★

新たなマネジメントの提言

20世紀前半に工業社会を前提として効率化を最優先したマネジメントのあり方が現在の世の中では限界を呈しているとして、新たなマネジメントのあり方を提言した本です。

生命進化の多様性、市場の効率性、民主主義の有益性、などを引き合いに出しつつ、またこれまでとは原則を異にする事例を紹介しつつ、イノベーションを誘発し続けられるようなマネジメントができるよう、マネジメントをイノベーションすべきだとしています。

また、これまで様々な議論がされてきたマネジメント手法の変革は、あくまでもこれまでのマネジメント手法の一部についての変革であり、今求められているのは原理原則からマネジメントを変革することであり、破壊的なマネジメントのイノベーションが必要である、としています。


著者が提言している方向については理解できますし、その方向に行くべきだとは思います。但し、著者が提示している内容そのものが、まだまだ断片的なものに留まっていますので(著者も認めていますが)、説得力に欠けると言わざるを得ません。

例えば、著者の提言に適う企業のマネジメント事例がいくつも紹介されていますが、同じ手法を採用している企業で失敗しているところがあるのかどうか、については全く解説されていません。これでは新たなマネジメントが成功要因になり得るのかどうかがわかりません。

また、著者の提言が、さも全く新しいものであるかのように紹介されていますが、個別事例の斬新さを除けば、提言している内容のほとんどは、ドラッカーが30年以上前に提言しているものと何ら変わりません。しかもドラッカーの提言の方が体系的です(『マネジメント』参照)。


なお、この著者は特段新しくもないものでも、クローズアップして斬新なタイトルを付けて提言することが得意なようですので、冷静に読む必要があると思います(『コア・コンピタンス経営』参照)。マーケティングが上手いんでしょうね。
とはいえ、既存のマネジメント体系の中で大事なものを再認識させてくれるという点においては有益ではあります。


ただ、著者の提言の方向性そのものは適切でしょうし、著者の提言に類するものは最近色々出てきていますので、知識のインプットそのものは有益だと思います。

この方向性と同じ提言をしているもので、マネジメントの外の世界からのものでは、以下の書籍が参考になります。

マーガレット・J・ウィートリー『リーダーシップとニューサイエンス』

事実に基づいた経営/ジェフリー・フェファー、ロバート・I・サットン





装いだけが科学的な危険な本

社会科学系の一般向け学術書によく見受けられる良くないパターンで構成された本です。


良くないパターンはこのようなものです。

一見すると類書とは異なった本であるように見せかけます。

・他の同業者の書籍について、事実を正しく伝えていない、思想信条をベースに事実を恣意的に選んでいる、質的な情報だけである(インタビューやセッションのみ)、落とし所ありきの統計処理による量的な情報である、などと並べ立てて批判する。そうすることで、この書籍はそうではないんだな、と読者に思わせる。

・そのうえで膨大な知見を賛成・反対併せて引用する。そうすることで、この書籍は科学的・客観的・中立的な情報に基づいて解説しているんだな、と読者に思わせる。

ただしその中身を注意深く読んでいくと、以下のようなテクニックが使われています。

・著者らの思想信条に沿わない説のネガティブな部分のみを紹介して貶めつつ、一方で著者らの思想信条に沿った説のポジティブな部分のみを紹介して持ち上げることで、思想信条に沿った説を優位に立たせる。

・著者らの思想信条に沿わないが科学的に検証されている説についてはネガティブな表現を使って紹介し、思想信条に沿った科学的に検証されている説については過剰なポジティブさと過剰な解説量を使って紹介することで、思想信条に沿わない知見の印象を極小化する。

・著者らの思想信条に沿わないが科学的に検証されている説が厳然と存在する場合には、本筋とあまり関係のないトピックを相当量挿入して、結論を濁す。または、その説そのものを引用しないことで無視する。


例えば、

第3章:仕事とプライベートは根本的に違うのか?違うべきか?において、ワークライフバランスという問題を解消するには、会社が従業員の家族までも巻き込むべき(面倒をみるということで会社に貢献させるべき)としていますが、以下のように説明が非常に脆弱です。

・ワークとライフを厳格に分離している会社とワークとライフを統合している会社の長期的な業績比較がされていません。分離している会社のデメリットをネガティブな表現で解説し、統合している会社のメリットをポジティブな表現で解説しているだけです。

・個人の嗜好性が全く考慮されていません。分離しているほうが望ましいと思う人もいれば、統合しているほうが望ましいと思う人もいるはずです。自説を押し付けているだけです。

・ワークとライフの分離と統合のいずれが企業・社員の双方にとって有益か、という問いで始まっているものの、最後は道徳レベルでの社会における個人の在り方と会社における個人の在り方が違うのはおかしい、といったかたちでねじ曲がってしまっている。道徳レベルは大事だが、論点は他にもたくさんあるのだが。

企業はリベラル系の全体主義でなければならないという思想信条が見え隠れしています。何を思想信条とするかは自由ですし、企業における課題によっては結果としてこのような思想信条が適切なものもあると思います(選択肢を最初から除外するのはもったいないですから)。ただし、巧妙な解説手法でこのような思想信条に誘導するのは「事実に基づいた」ものではありません。


第4章:業績の良い会社には優秀な人材がいる?において、才能は後天的にどれだけでも伸ばすことができる、とされていますが、少なくとも現時点での才能についての科学的な知見は以下のものです(将来的に更新されることはあるでしょうが)

・知能の個人差の半分程度(要素により差あり)は遺伝子が決めている(残りは独自環境)。
・知能については上限が遺伝子で決められており、環境によって上限を限度として発現する。
・個性の内、気質と呼ばれる部分についてはほぼ遺伝子が決めている。

本書で述べられているように、才能をフルに開花させるには環境・努力が必要なのは言うまでもありませんが、上述した科学的な知見は一切引用されていません(ただし、この部分を追及されても言い逃れできるようなコメントは上記パターンを上手く使ってしっかりと本文に掲載してはいますが)。

また、同章では、人の才能よりも企業のシステム(組織・業務・制度など)が重要だとしていますが、これは優秀な人材がいるのか?というテーマからは外れていますし、優れたシステムを作り出すためには優秀な人材が必要であることについては全く言及されていません。


第5章:金銭的インセンティブは会社の業績を上げるか?にいたっては金銭的インセンティブか非金銭的インセンティブかというレベルの低い二者択一の論調に終始しています。

そして、金銭的インセンティブのデメリットと、非金銭的インセンティブのメリットを比較するという全く作為的な展開をしたうえで、非金銭的インセンティブが良いんだと強引に結論づけています。

更に金銭的インセンティブの例として、それらの弊害(確かにあります)が軽減・改善される前の酷いレベルのもののみを引用しており、改善を重ねた効果的な仕組みについては何ら紹介されていません。

また、大手人事コンサルティングファームの提供している人事制度について、金銭的インセンティブに終始していると攻撃しています。確かにその風潮自体はあります(日本でも)が、本書の解説はそれとは主旨だけ異なるものの、レベルとしては同程度のものだといえます。

少なくとも人材マネジメント領域においては、知見の使い方も含めて学生の論文レベルの低さだといわざるを得ません。


このような方法で本書は展開されていきます。したがって、本書で引用された全ての知見を使って全く逆の展開・結論をつくることもできます。「事実に基づいた」解釈に基づいた書籍です。

「事実に基づいた経営」が正しい道を拓く、との本書のメッセージは、本書の展開そのものによって著者ら自らが打ち消したといえるでしょう。

最近、巧妙に仕組まれた一見科学的な書籍が増えているように思えます(ビジネス書だけではありませんが)ので、お気をつけください。私がこれまで読んだ本の中では以下のようなものがあります。国内外問わず、またどの分野でもこのような本はあるようです。

なぜビジネス書は間違うのか/フィル・ローゼンツワイグ(経営学)
虚妄の成果主義/高橋伸夫(経営学)
経済幻想/エマニュエル・トッド(経済学)
進化と経済学/ジェフリー・M・ホジソン(経済学)
増補ケインズとハイエク(経済学)
IQってホントは何なんだ?/村上 宣寛(心理学)
遺伝子神話の崩壊/ディヴィッド・S・ムーア(生物学)


とはいえ、現実の経済・社会においては、確かな事実を見つけるのは容易ではありません。人の観点の数だけ事実があるといってもよいでしょうし、事実と言われているもののかなりのものが単なる現象です。なにせ学術の世界でも再現性のある経済モデル・社会モデルが打ち出されていませんので。

ですので「事実に基づいた経営」が如何に理論的に重要なことであっても、それを実現するのは容易なことではなく、かつそれを追求することが正しいとも言い切れないと思います。

それよりも、ある現象に対して多様な観点・解釈を重視・駆使することで物事を見極めたり、正反対の知見があることを前提として自社にとっては何が重要なのかを議論したり、既に検証済みの科学的知見を探し出したり、複数の学術領域を横断して知見を探し出したり、するほうが現実的かつ効果的だと思います。

結論としては、「経営は事実に基づいているか」という問い自体が適切でない、ということです。
このあたりについては、ドラッカーが深い洞察に基づいて解説をしていますので、そちらを確認されるといいでしょう。科学的な装いをした危険な経営学への警鐘もしています。

慮る力/岡本 呻也



★★

ビジネス雑誌記事レベルの本

EQのフレームを使って整理してはいるものの、基本的にはビジネス雑誌に掲載されているレベルの深さの記事を羅列しただけの本です。
ですので「慮る力」についての体系化された理論や、科学的な裏付けを学びたい方にとっては物足りないレベルであることは間違いないでしょう。

また本書では「慮る力」を顧客対応全般とかなり広く定義していますので(それはそれでいいのですが)、内容が薄く広いものになっています。
ですので、マーケティングにおける顧客ニーズの深い把握、接客サービスにおける良質なホスピタリティ、といった個別テーマを深く学びたい方にとっては物足りないレベルであることは間違いないでしょう。

一方で様々な業界での事例を広く浅くいろいろと知りたいという方にとっては参考になる情報だと思います(本書の内容を一通り知ったからといって実務に活用できるとは思えませんが)。


ただし、明らかに心理操作で顧客を動かそうとしている事例も含まれていること、著者による整理&提言の仕方が総花的であること、参考資料として掲示されているものが見にくいこと、日本国内の事例しか掲載されていないこと、「慮る力」を如何に習得することができるか、またそれらは誰にでも習得できるのか否かについての言及がないこと、などから本書のスタンスそのものに読者への「慮る力」が欠けているように思えます。

「慮る力」についてしっかりと習得されたい方は、この力を差別化・競争優位の要件として努力している企業についての良質の紹介本を何冊か読まれた方がよいでしょう。

教育×破壊的イノベーション/クレイトン・クリステンセン等



★★★★

教育システムを題材としたイノベーション理論のケーススタディ

本書は、クレイトン・クリステンセンが構築・提唱したイノベーション理論を、教育システム全体の変革を題材として適用したケーススタディです。

イノベーションを学習する方々にとっては、教育システム全体(学校・教師・生徒・親というだけでなく教育委員会・教育研究者・行政にまで、学校教育だけでなく乳幼児教育にまで広げています)という大きな題材に対して、また企業とは異なる環境のものに対して、クリステンセンのイノベーション理論がどこまで通用するか、という濃い知見を得るには有益なものとなっています。
これまでも事例を紹介した書籍はあったのですが、一つの産業を題材としてイノベーション理論を適用したものはありませんでした。本書によってイノベーション理論の全体像や適用方法がより鮮明になると思います。
また実際にイノベーションを推進する際に必要となる新たな観点・解釈も紹介されています(イノベーションだけでなく通常のマネジメントでも有益です)ので、より実践的なものとなっています。『イノベーションへの解 実践編』と併せて読まれると、より理解が深まると思います。

教育改革のあり方について学習する方々にとっては、どのような切り口・アプローチで改革することが最も効果的か、ということについての新たな知見を得ることができると思います。
ゆとり教育をどうすべきか、習熟度別学習をどうすべきか、教員更新制度をどうすべきか、統一テストをどうすべきか、といった枝葉の議論に終始しているように見受けられる現在の教育改革の議論に対して、確実に一石を投じるものになっています。


また、教育のイノベーションに際して取り上げられた様々な事実・知見にも有益なものがあります。
生徒一人ひとりが異なる知能・学習スタイルを持っていること(ハワード・ガードナーの多重知能理論など)、生後36ヶ月までの親子の雑談が認知機能に決定的な差をつけること、といった心理学・神経科学の知見や、多くの教育研究の知見が記述的理解(現象を観察・調査して相関関係を見出すところまで)で留まっており、規範的理解(様々な状況を分類してそれらの因果関係を見出し予測可能性を確立するところまで)には全く至っていないこと、といった教育研究の実態、などです。


なお、本書の結論としては、破壊的イノベーションの第一弾としてITを駆使すること、それを現在の教育システムの補完としてではなく、現在満たされていない用途に対して適用すべきであること、というものです。
ただ、それらを教育の目的として本書で設定している「生徒一人ひとりの知能・学習スタイルに合わせた教育の提供」にまで持っていくためには、やはり既存の教育システムを破壊する必要があるということです。そして、教育システムのさまざまな関係者自体が自らを変革していく必要があるということです。
この辺りが市場における企業の破壊的イノベーションと異なるところでしょう。市場における企業においては、新たな企業が破壊を仕掛けることができ、競争の中でイノベーションが成功するのですが、教育システムでは新たな学校が自由に立ち上がることはありえず、かつ競争がないため、既存の教育関係者が自ら変革していくしかない、ということになります。学校を競争させることには様々な議論がありますが、競争がないことで持続的イノベーションが強化されることは間違いないでしょう。
この点が、市場における企業をベースとしたイノベーション理論の限界ということになるのかもしれません。


あと、監修者による解説は不要です。本書を読んだとは思えない表層的なものですので、かえって本書の価値を下げます。
また、翻訳も目立った箇所でミスがあります。大事な切り口を紹介する箇所での誤字は致命的ですので、これも本書の価値を下げます。

メディチ・インパクト/フランス・ヨハンソン



★★★★★

充実したイノベーション指南書

主要なイノベーション理論・背景となる科学的な知見・イノベーターへのインタビューという幅広い知識、アイデアの生成?イノベーションの実践までのプロセス全体、イノベーションの促進要因・制約要因(物理的・社会的・心理的)、これらを一つのかたちにしている本です。

イノベーションに関する書籍の多くは、これらのどれか一つに特化しているものなのですが、本書はイノベーションにおいて重視すべきほとんどの領域をカバーしています。このことだけでもイノベーションを学習する際に最も中核に据えることのできる本だといえます。

また、事例のトピックがふんだんに盛り込まれていること、わかりやすい文章・用語を使用していることから、頭の中に入りやすい解説となっています。

更に、イノベーションにおいては常識となっているものについても、科学知見を活用して建設的な批判を行っているものが幾つもあり、その誠実な姿勢にも好感を得ることができました(例えば、ブレーンストーミングはイノベーションでは常識的な手法なのですが、科学的な実験ではその効果は検証されていない、など)。

あと、参考文献も記載されており、本書を中核にしてイノベーションの様々な観点を掘り下げるのに有益なものとなっています(参考文献の記載は当たり前のことなのですが、それを邦訳時にカットする出版社が少なくないですので。特にビジネス書になるとその傾向がありますね)。

広く、深く、わかりやすい本です。


なお、本書はメディチ家の歴史について解説している本ではありません。またルネサンスにおけるメディチ家の活躍を分析した本でもありません。

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